その6 陰陽とミネラルバランス

思想家の櫻澤如一氏が提唱したマクロビオティックは、陰陽のバランスを図る食養生で、食品を陰と陽に分類します。陰の代表は野菜、くだもの、砂糖で、陽の代表は肉、塩ですから、バランスのいい組み合わせは例えば、野菜と塩です。確かに、陰のトマトに、陰の砂糖を振りかけると、いくら甘いものが好きな人でもちょっと食べる気にはならないでしょう。陰のトマトのうまさを引き出すのは、陽の塩、という組み合わせです。
これをミネラルバランスで見るとどうなるか。トマトなど野菜に多く含まれるミネラルはカリウムで、塩はナトリウムが凝集しています。このミネラルバランスに着目したのがゲルソン博士で、「がんの人のほとんどは、体内にナトリウムが多く、カリウムが少ない」と指摘しました。ゲルソン療法を実践して、進行性の前立腺がんを自ら治した渡邊勇四郎医学博士は、「尿に出てくるナトリウムとカリウムの比率が1対11か、それ以上にカリウムの比率が高かった人で、がんがあった人は、検査してみた限り、今のところ一人もいない。この比率を持続的に達成できれば、がんは治るはず」と主張しています。
渡邊博士が主張するこの〝黄金比率〞を食事で達成するのは、そう簡単ではなさそうです。野菜やくだものにカリウムが多く含まれているとはいえ、含まれているカリウムがナトリウムの10倍以上という〝黄金比率〞を達成しているのは、ホウレン草や大麦の葉といった、緑が濃いものや、すいか、ジャガイモなど一部で、〝黄金比率〞までいかない野菜、くだものも多くあります。野菜やくだものだけを食べていても、〝黄金比率〞を達成するのは簡単ではないのに、ミネラル比率ではナトリウムが100%に近い塩を加えてしまったら、〝黄金比率〞の達成は、まず不可能です。ゲルソン療法の「塩抜き」には、こうした背景があるわけです。
ナトリウムが多くてカリウムが少ないと、体の中、細胞の中はどうなるか。健全な状態の細胞の中と外を見ると、細胞の中にはカリウムとマグネシウムが圧倒的に多く配置され、細胞を取り囲む体液では、ナトリウムとカルシウムが圧倒しています。この極端なミネラルの配置は、細胞の代謝に関わっている、と見られていますが、がんは遺伝の狂いというより、代謝の異常がもたらす病気ではないか、と考える研究者が増えており、細胞の中と外のミネラル配置の重要性を見逃すわけにはいきません。

ともかく、この細胞の中と外を隔てる細胞膜には「ナトリウム・カリウムポンプ」と呼ばれる〝管理役〞がたくさんいて、入ってきたナトリウムを外に追い出し、代わりに外のカリウムを招き入れる役割を果たしています。わざわざこんなポンプがあるのは、ナトリウムが細胞内に侵入してくるからで、「このナトリウム・カリウムポンプだけで、私たちの全エネルギーのうちの、4分の1くらいが消費される」と栄養・料理研究家の丸元淑生氏が指摘しているように、細胞はナトリウムを追い出すのに必死なようです。ですから、カリウムを少なく、ナトリウムを多く摂取するほど、ナトリウムが細胞内に侵入する機会を増やし、この追い出しが間に合わないと、細胞の代謝に問題が起こりやすくなると考えられます。
中にマグネシウム、外にカルシウムという配置も同じように重要なようです。細胞膜にはやはり、「マグネシウムポンプ」と「カルシウムポンプ」が備わっています。カルシウムは骨と歯の主要成分であり、血液をアルカリ性に保つのにも主要な役割を果たす重要なミネラルですが、だからと言って、カルシウムばかりを摂取するのも注意が必要です。このため、カルシウムのサプリメントには、マグネシウムが同時に入っているものが多いようです。